前回の続き。


 展覧会の中で一つの目玉となっているのが、「サイバネティック・セレンディピティ」(以下CSと略記)展を含む60年代の芸術と技術の関係を、展覧会や出版物を軸に紹介したコーナー。会場配布資料として森岡祥倫氏のCS展についての論考がついてくるのは、ちょっとした趣向といえる。この展覧会は1968年にロンドンで開催され、のちにワシントンとサンフランシスコに巡回した。それに続くように同年MoMAではEAT(Experiments in Art & Technology)の協力により「ザ・マシーン」展が開かれ、70年にはNY、ジューイッシュ美術館で「Software」展が開催される。おおざっぱにいって、60年代のアート&テクノロジーに関する展覧会は新技術による表現方法の発展の可能性が前面に押し出されていたのに対し、「Software」展を皮切りにした70年代ではむしろ技術による社会的な影響力を重視する傾向にあり、問題圏は拡大してより政治的な主張が付与された。ヨーロッパのグループ・ゼロとの関係を経てアメリカに移ってからも専らミニマルな作品を制作していたハンス・ハーケが政治的方向へシフトするのも、この「Software」展からだった。


 ここで問題となるのは、CS展やSoftware展が採り上げられて、EATの活動が特にフィーチャーされていないという理由だ。どうも展覧会の主旨である「デジタルテクノロジー」「デジタル的概念」が関係していそうだが、その辺は特に説明されていない。そもそも「デジタル」とはいかなるものか?これを問わずして「デジグラフィ」も何も始まらない。了解事項として通り過ぎるにしては少し問題圏が大きすぎるような気がする。