【去年の10月に書いた記事です。きまぐれに転載。】


美術関係でもっとも研究が困難なのは、映像資料だろう。ピカソの《アヴィニヨンの娘たち》やマティスの《ダンス》、ポロックの《No.13》とかデ・クーニングの《女》の絵画を見ようと思えば、画集やネットでいくらでも入手することができる。だがロバート・スミッソンの《ホテル・パランクェ》やヴィト・アコンチの《センターズ》、最近で言えばダグラス・ゴードンの《24時間サイコ》やマシュー・バーニーの《クレマスター》を見ようと思っても、早々簡単にはいかない。時たま開かれる上映会や展覧会でお目にかかるのがやっとという状況だ。ビデオ作品は映画のように全国上映してくれないし、著作権の関係で市販されることもまれだ。ビデオ・アート研究が一向に増えないのもそうした事情がある。



ビデオ・データバンク(VDB)には70年代に興ったビデオ・アートの代表的作家の作品を収集している。作品名をクリックすると、小さなポップアップウィンドウが開き、短くカットされた本編を見ることができる。また全編を閲覧したい場合は料金を払いレンタルしてくれるという。だが料金があやしい。レンタルは渡航の時間分ももちろん課金されるので、僕らは6〜8週間ものレンタル料を払わなければならない。また肝心の一作品の料金表示はどこにも見当たらない。加えて日本に住む僕らは国際便のため25ドルの税金が加算されるという始末。おそらく数万の予算を見積もって一作品を借りると考えた方がよさそうだ。



VDBと対照的なのは、音楽・音声資料を中心に収集しているアーカイヴサイト「UBUWEB」。サイト名はA.ジャリ作の有名な演劇、「ユビュ王(Ubu Roi)」から採られたと思われるが、ともあれこのサイトは膨大な音声資料を“完全無料”で聴くことができる。音声資料といっても色々あって、実験音楽からフーゴ・バルやアントナン・アルトーなどの肉声も収録されている。またアーティストがラジオで対談しているテープもアップされているなど、大変貴重な資料が山積みだ。中にはジャック・ラカンの記録映像(これは『テレヴィジョン』という邦題で書籍化されている)もあったりする。だがやはり問題はあるようだ。それは誰もが一度は危惧するように、著作権の問題である。少し前、このサイトはその案件で一悶着あったようだ。それ以降サイトには物々しい呪詛の言葉が増えていった…。両者のサイトを比べてみると、なにかやり切れないものを感じざるを得ない。幸いUBUには多くの支援者が援助をしているようだから、今のところは難局をしのげるだろうとは思うが、さて今後どうなるか。