執拗なまでに幾何学的な描写

このフレーズが気になって、買ってしまった。
ロブ=グリエの『迷路のなかで』。

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

迷路のなかで (講談社文芸文庫)


確かに、執拗、かつ近視眼的で、偏執狂的。

その向こうの、テーブルの右角に電気スタンドが立っている。一辺が十五センチの正方形の台座の上に、同じ直系の円盤がのっていて、溝のついた円柱が、傾斜のきわめてゆるやかな円錐形のくすんだ色の笠をささえている。笠の上端の円周上を、一匹の蠅がゆっくりと、しかし連続的に移動している。それが天井に影を投げかけているのだが、形がくずれ、もとの蠅のどの要素も、羽も、胴体も、脚もわからなくなっている。全体が一個の糸状の線に変り、規則的な破線、といっても一辺の欠けた六角形みたいな、閉じていない破線、即ち電球の白熱フィラメントの形になっている。この小さな、ひらいた多角形の角のひとつが、スタンドの投げる大きな光の輪の内側の縁に接している。そこをゆっくりと、しかし連続的に、円周にそってこの多角形が移動してゆく。それが垂直の壁面のところにくると、ぼってりとした赤いカーテンの襞のなかに見えなくなる。